5/7 あたりくじ

 のほほんとしているうちに5月になってしまった。このところの私はと言うと、サークルに行き、サークルの人と遊び、サークルの人と飲み、サークルの人と電話し、高校同期と電話し、高校同期と遊び、その合間に忘れきれずに就活をする、というような、まあどちらかというと愉快な日々を過ごしている。

 

 先週末は「新歓キャンプ」なるサークルの行事で、九十九里浜に泊りがけで出かけた。小学校の社会の教科書で見た、長い長い砂浜に自分が立っているのか、と思うとどこか嬉しかった。

 昼間はレクだったりBBQだったりをして、夜はコンパという名の雑多な飲み会が開かれた。キャンプの中でいちばん盛り上がったのはどこか、と言われるとまあ自然とコンパと答えることになるのだが、じゃあ二番目は、となると悩んだ挙句行きの車かしらね、ということになる。全部楽しかったのだけれど。

 その盛り上がったコンパや行きの車のなか、もっというとBBQでも海でも風呂でも部屋でも寝るときでも、なんならちょっとしょげていた帰りの車のなかでさえ隣にいた同期がいる。この同期の話を今回はしたいと思う。

 

 そもそも私たちの代は人数が最初から少なく、今でもイベントごとにちゃんと顔を出すのは6人くらいで、そのなかに女子は2人だけしかいない。それがその同期と私である。

 彼女は非常に味わい深い人間で、その為人を簡潔に言い表すのは難しいのだが、それでも無理やり一言で表現するとするならば「高潔な女」という感じだ。犬か猫なら絶対に猫で、魔法使いなら氷魔法を使いそうで、ポケモンとして彼女が存在するなら特性トレースのキルリアである。さらさらのロングヘアはいつもきれいなストレートに整えられており、マキシ丈のワンピースがよく似合い、都会出身の人間の例にもれず歩くのが速い(ついでに足が長いのでより加速されている)。

 ひとりでいるときの彼女は実に澄ました顔をしてその場にたたずんでおり、お世辞にもとっつきやすい人間に見えるとは言えないのだが、実際には人と話すのが嫌いと言うわけではなくむしろ好きな方で、話を自分から始めるのがあまり得意ではないだけとかいう非常にキュートなところがある。だから一度仲良くなってしまえば彼女との会話は軽快なリズムで進んでいくし、テンションが上がったときの彼女は私よりうるさい。これを読んでくれていて彼女のことを知らず、かつ私の騒がしさを知っている人たちには「嘘をつくな、お前よりやかましい人間がそうそういてたまるか」と思われているかもしれないのでここに補足しておくが、本当である。まあ彼女がうるさくなっているときは大体私も一緒にぎゃいぎゃい騒いでいるので、単体で比較するのは難しいのだが、どうにかして一人ずつの声量等を計測した場合、彼女の声は確実に私の1.2~1.5倍のボリュームを有しているはずだ。

 じゃあどうやって仲良くなったのか、と聞かれてもそんなにはっきりとしたきっかけは思い出せない。これ自体はよくあることだ。ただ、出会った当初は彼女が何の話題になら反応してくれるのか全く見当がつかず、相当苦心しながら会話を投げかけていた記憶がある。すんなりと最初から話が合いました、というわけではなかった。それでも最初に書いたように同期の女子は彼女しかおらず、彼女と仲良くなった方が今後息はしやすいだろうな、みたいなところもあり、実際彼女から初めて送られてきたLINEは「仲良くなれそうな同期女子が入ってきてくれて嬉しい」みたいな旨のもので、まあ頑張ってみる運びとなったのだった。

 私は彼女と出会ったサークルに2年生の時加入したのだが、彼女は1年生の時から一足先に在会しており、その分先輩とも繋がりがあったので、おそらく彼女に気の合う同期が存在しないのを心配したのであろう先輩から私と彼女を巻き込んで一緒に遊びに誘ってもらう機会が何度かあり、そのほかにも個人的に遊びに誘ったり、誘われたり(したっけ?誘いはしたと思うけど)して一緒に時間を過ごした。そのたびに持っているありったけのボールを投げつけていたら、ちょっといいフルーツパーラーの店員さんから注意を受けるくらいの笑いを彼女から引き出すことに成功し、めちゃくちゃ焦っているとその様子を見て彼女がまた笑い、まったくこいつは、と呆れるなどして、なんとなく彼女とだいじょうぶになっていった。このフルーツパーラー事件が2年生のときの、たしか桃の旬だったと思うので、夏ごろだ。約2年前。

 書いていて2年!?となった。短すぎる!!だって実際には2年弱でしょう。別に3、4年過ぎていても違和感がないくらいだ。今の私の周りには、とても濃い時間が流れているらしい。

 

 私は今4年生で、例のサークルに在籍できるのは一応4年生まで、みたいな流れがあるので卒業しようが留年しようが就浪しようが今年でW402に通うのは最後になってしまう。そういう名残惜しさが関係あるのかないのかよく分からないが、今現在彼女と私のサークルモチベは天をぶち抜く勢いで高く、週2回のサークルで毎度顔を合わせてはほぼ毎度ご飯に行っている。私に至っては在籍3年度の中で断トツの出席率を誇っている。彼女には去年それを発揮しろとよく怒られるが、まあこんなものは気分なので、今更言われても仕方がない。4年の分際でいつもいつも顔を出してしまって申し訳ないな、という気持ちは割と存在する。が、とにもかくにもサークルが楽しい。もう4年なのに!

 

 意図せず話が逸れたが、先ほどの一節で重要なのは「彼女と私のサークルモチベは天をぶち抜く勢いで高」いという部分だ。そして、それに伴って、現在、彼女と私の共通の話題は尽きることを知らない、という風につながってくる。

 一緒に過ごした分だけ話のネタは増えるので、週に2回以上という大学生にしては驚異の頻度で顔を合わせている友人なのにもかかわらず、話す時間が足りないというかタイミングがつかめないというか、という感じで先日4時間も電話をしたことがあった。まあ主に主題は定まっていたのだけれど、女が2人いて話が纏まっているわけもなく、さまざまなことが話題に上った。

 バカな話をバカでかい声で話していることもある2人だが、普通に妙齢の女性らしい話をしていることももちろんあり、そこでは結婚式の話になった。その時の彼女は紹介ムービーなんて意味が分からない、スピーチとかどんな顔で聞くんだ、と披露宴の存在自体を否定する勢いだったが、私は結婚式の感動する部分が式で、楽しい部分が披露宴だと思っているし、なにより彼女の様々なドレス姿を拝みたいし、ついでにこれまで結婚式に出たことがなく存在そのものに憧れているというのもあったので、絶対に実施してくれとごねていた。そしたらそのうち、スピーチは誰がするんだろうね、という話になり、まあいろいろと考えているうちに、「もしかしたら○○(私)になるのかもね」と言ってもらえた。

 これだけでも嬉しいことには違いない。彼女の人生の節目に、華々しい一場面に一枚かめるのか、とにこにこしていた。しかし問題、というかより重要なのはこの次である。前後の詳しい流れは忘れてしまったのだが、たしかお互いに会えてよかったね、みたいなことを話していたと思う。私はにこにこしながらも、しみじみと彼女という存在のありがたさを考えていた。当の彼女もにこにことした声色で私と仲良くなれたことを喜んでくれて、そのなかで、「○○(私のフルネーム)は人生で3本のあたりくじだから」とご機嫌さを言葉尻に滲ませながら言い放ったのだった。

 

 あたりくじ。私は彼女にとってのあたりくじだったらしい。自分が誰かにとってのあたりくじであるとか、正直今まで考えたことすらなく、当然そう思われているなんて感じたことや予想したことなどもなく、言われたときは面食らった。そしてとてつもなく嬉しかった。本当に嬉しかった。

 そのときから「あたりくじ」という言葉は私の中でいつもころころと丸く転がり、その存在を意識するだけでぼんやりと暖かく、もっと言うと、私の冗談で彼女がけらけらと笑い、それを見て愛しいな、と感じるたびに思い出されてくる。

 

 キャンプで宿泊したコテージの宿泊設備はなんともまあお粗末なもので、飲み会の後疲れた体を横たえると布団をすり抜けて床の存在が直に伝わってきた。その、ほぼ床と変わらない固い寝床に並んで転がり、枕がないとか床すぎるとか無声音で笑いながら文句を言い合っていると、真横で既に寝息を立てていたかわいい後輩が寝返りを打ったので、2人して慌てて口をつぐみ、今度は声を出さずに笑った。

 そのあとも予期せず来訪者などがありつつ、本格的に寝る体制に入ると彼女はすぐに寝息を立て始めた。早すぎるだろ、と驚きながらも自分も早く寝ようと彼女と一緒に使うことになった布団をかぶり直し、すぐそばの廊下で新入生たちがまだまだ元気にはしゃいでいるのを聞きながら、私は、なんてきらきらとした時間なんだ、と喜びをかみしめていた。年を取っていくと、こんな固い布団なんかでは本当に寝られなくなりそうだし、そもそも後輩と5人で相部屋なんてする機会は社会に出てからはそうそうないはずだ。限られた期間でしか味わえない、なんてきらきらとした贅沢な夜だろう。でも、寝る前までいた飲み会の部屋には、どこを見たって後輩と少しの同期の姿しかなくて、そういうのを感じるたびにこの時間はもうすぐ終わるんだなあ、と改めて思わされて切なくなる。ことあるごとに感傷的になっていけない。

 

 翌朝起きると体は痛く、外は雨だった。宿と話がこじれたのもあって委員であるかわいい後輩2人は双方消耗しており、見ていて可哀想というか申し訳なくなるくらいで、加えて昨日から続けて運転をお願いすることになっていたこれまたかわいい後輩は人のわっかの隅っこで身支度を整えたまま丸まって眠っていた。後輩も私とおんなじくらい酒を飲み、夜更かしをして、あのぺらぺらな布団で寝たのだ。絶対元気ではない。それなのに他の人たちを駅に送り届けるために早起きをして、準備を整えて、もう既に運転を一度済ませているはずだった。私はそれを見て、人に長距離の運転は愚か距離や金額の計算まで知らないうちにやらせておいて、はしゃぐだけでペーパードライバーで戦力外な自分っていかがなものか、と完全に打ちのめされてしまった。今考えてもバカすぎる。追い打ちをかけるように、買い出しで選んできた納豆には醤油が付いていなかった。何の役にも立っていなさすぎる、と呆然としていると外からは雷が鳴りはじめ、雨はまぎれもない土砂降りになった。散々だ。ついでに慌てていると膝をアイロンでやけどしてしまい、そこが度々ひりひりと痛んだ。

 いろいろ考えた結果、花畑に行くのは諦めることにした。夜のきらきらした気持ちを忘れて心底落ち込んだまま歯磨きをしたり、椅子に座ってぼんやりしたりしていると、例の同期は何かを言うわけでもなくついてきて、近くにたたずんでいた。落ち込みながらも、あったかいなこいつは、と思わされ、なんとなく慰められて、無事大学まで帰ってきたころには周りに迷惑をかけないくらいの明るさを取り戻すことができた。そのころには外も晴れてきて、なんなんだこれは、と思った。まったく。

 私につられるように元気がなかった同期も、皆でご飯を食べにいったあたりで調子を取り戻しはじめ、サイゼに似つかわしいにぎやかな雰囲気で会話を交わした。彼女の特性はトレースだと最初の方で述べたが、そう思ったのはこのときだった。

 私にとっても彼女はあたりくじだ。本当にそう思う。これではまねしただけなので、いつか私なりの言葉で、彼女のことを言い表すことができたらいい。

 

 

 最近本当に毎日を明るく、明日を楽しみにしながら過ごせていて、精神的安定に伴い生活リズムの調子もよい。いろいろ落ち込むこともあった春だったけれど、この5月を「私完全復活の月」とするべく、元気に楽しく過ごしていけたらと思う。